経済学関連

だいぶご無沙汰してしまいました。

・水田洋『アダム・スミス研究』

だいぶ前に書かれたものだけれども、復刊してるみたい。かなりよい。たしか、岩波文庫の『道徳感情論』や、ホッブズの『リヴァイアサン』をやくしてたひとじゃなかったかしら(未確認)。ちなみに、経済学界隈は、少なくとも少し前までは前身東京商科大学を含めて、一橋大卒の研究者が大部分を占めてるような気がする。マル経は東大が主だろうけれど、やっぱそこら辺で分かれるよなぁ。。。石原慎太郎しかり、戦後、ドイツ系をはじめとするヨーロッパの文化遺産教養主義)が駄目になっていくなかで、英米系のものが力をもつようになったというわけでしょうか。しかし、この水田さんは、しっかりとした歴史研究をしていて、おそらくはロイ・パスカルのスミス読解に導かれてのことだろうけれども、スコットランド学派に対するルソーなどの影響も考慮に入れていて非常に好ましい。

しかし、この本を読んで、やっと昔うちのSK先生がスミスの『道徳感情論』の先駆性みたいなことをしきりにのたまっていた意味が理解できました。ですが、先生、それはむしろファーガソンらにみられるようなルソー主義の影響で、それがスミスの自然権理解に一役かっているのはたしかなものの、スミスにおいてはむしろかなり後退しているのではないでしょうか?「分業が人間社会にある種の奇形を生むこと」に気づいていながら、分業がもつ効率性のすばらしさを説く方に忙しかったスミスには、「同感」を論じる文脈でもどこかドライなところがある気がしました。やっぱアダム・スミスはやなやつ。

青木昌彦経済システムの進化と多元性―比較制度分析序説

コースの市場の外部論を受けての比較制度分析。しかし、ナッシュ均衡とかゲーム理論とか使うのはいいけれど、肝心の組織分析が単なる類型化にとどまっているのは、この本が「序説」だからか。試みとしては面白いし、この分野ではかなりの権威のようなので、もうちょっといじくってみますか。。。

・竹田茂夫『思想としての経済学―市場主義批判

ブラックマンデーやロシアのデフォルトの際の金融危機を煽って、経済理論の破綻を喧伝しているだけかと思いきや、割ときっちり思想系のことも勉強しているひとで、今回僕のやろうとしていることに近いことを志向していた人かもしれないと思い直す。しかし、経済学が現実から遊離していることと、現実に経済システムが破綻することは少し違うことなのでは?確かに、金融工学のでっち上げモデルが現在の信用システムを支えていることはそうだとしても、単にモデルの不完全性だけを煽っても仕方あるまい。むしろ、言語ゲームの枠組みの中のひとつとしての貨幣ゲームというとらえ方をきちんと定式化する方に紙幅を割いてもらいたかった。代わりのモデルで、きちんと代わりとなるような信用システムが構築できるのか?大きな難問であることは理解できるが、それを示さない限り、煽っても空回りかと。まあ、思想系のひとには受けがいいだろうけど。

・吉田和男『複雑系経済学へのアプローチ』

線形で駄目なら非線形?アプローチが異なるだけで、本質的には何も変わらないような気がするのですけれども。。。確かに、非線形景気循環モデルを描くなど面白いと思うけれど、そうした技術的な興味は、現実の経済問題とは全くことなった次元にあると思う。にもかかわらず、これまでの経済学は、線形にとどまっていたために経済の複雑な諸相を明らかにすることはできなかった、などととりあえず予算を獲得するための前口上は巧み。またたくさんの研究者が動員されて、何も明らかにしていないくせに費やした労力だけの報酬を要求するのだろうな。でもそれって、経済学の「飯の種」を増やしておくだけのような気もする。