伊藤キム『禁色』

@世田パブ。僕が見た中では一番よいキムの作品。舞台の両袖を白い壁で、正面を黒く反射する、ほどよい堅さの素材で囲んだ空間が、照明の強烈な力によって時間を刻んでいく。おそらくはキムはいつものキム、白井はいつもの白井なのだけれども(もちろんそれ自体わるいはずもない)、音楽の的確さも手伝って、いくつか崇高とさえいえるような完璧な瞬間を作り出していた。これぞ総合芸術、といった感じ。冒頭のフリチンも、キムらしいバランスのとり方だと思うが、彼が何らかの「形而上学」をやろうと思えば、ああならざるをえないのだろう。

しかし、『禁色』というのは、本人どこまで真面目なのか、測りかねる部分がありますね。三島由紀夫=舞踏の系譜に連なる出自ながら、その「極北」を引き受けるつもりなどおそらく毛頭なく、「世界の舞踏」をほとんど政治的なカードのごとく使いつつ、奇妙なバランスでやってきたはずのところに、この『禁色』で「自分のルーツを見直す」というのですから。。。この作品がかなり真剣に取り組まれたものであることは随所に見えるものの、その「成功」後のレセプションにおいてさえ、「舞踏バンザイ」という乾杯の音頭が「悪い冗談」にしか響かないというところに、キムの特異な位置づけと、「舞踏」の先行きに関する一抹の不安を感じざるをえませんでした。

以上、いろんなひとにもっとダンスを見てもらいたいので、やはりたまには踊りについても書くことにしようかと思います。論文執筆中、著しく更新頻度も落ちていることですし。。。とはいえ、はずれの多いダンス業界では珍しくおすすめできる作品ですので、興味のあるかたは是非足を運んでみてください。6/11まで。